内容注記 |
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Abstract
SicやGaNなどのワイドギャップ半導体の実用化により,半導体電力変換回路の高電力密度化が急速に進んでいる。これは概ね良い変化といえるが、この変化に伴いいくつかの問題も発生しており,例えば電力変換回路で使用する受動素子の体積が相対的に大きくなっている。それに伴い、電力変換回路において、受動素子の特性を深く理解することが設計において重要性を増してきている。ところが、これまではパワーデバイスが損失の主要因となっていたため、受動素子に関する研究は不足している。中でもインダクタに関しては、最適設計において重要な要素である、損失の計算・測定がどちらも困難である。そのため、実用的なインダクタの損失解析法の開発に対する期待は高い。そこで先行研究では,電力変換回路に使用されるインダクタの励磁条件を踏まえた鉄損の計測法とそれを表記する手法であるロスマップ法を提案し,その有効性を示してきた。しかしながら、ロスマップ法が適応できるインダクタには制限があった。最も検討が不十分なのが、磁気コアにエアギャップを挿入したインダクタについての鉄損計測・計算である。大電流で励磁するインダクタの場合には,磁気コアの磁気飽和を防ぐためにエアギャップを挿入することが多い。その場合、エアギャップ部の磁気抵抗の値が複雑に変化することや,ギャップから磁束がコア外部に漏れ出すことになり、漏れ磁束・フリンジング磁束が発生する現象が知られている。漏れ磁束・フリンジング磁束は、磁気コアや巻線中のジュール損失(フリンジングロス)の原因となる。これらの要因から、従来の鉄損測定法はギャップ付きインダクタに対応できない場合がある。また、ロスマップ法においてもこれらに対応できるのか、検討に至ってはいなかった。そこで、本研究ではまず、フリンジングロスを排除した条件下での、ロスマップ法のギャップ付きインダクタへの適応を検討した。そのために、従来の測定法をギャップ付きインダクタへの適用のために改善し、測定精度の向上を確認した。しかし、鉄損だけの解析では、ギャップ付きインダクタの損失解析は不十分である。コア外部に漏れだす磁束の影響が大きく、鉄損以外の損失が無視できないほど大きいためである。その多くを占めると考えられるフリンジングロスについては、発生原理などは既に研究が進められている。シート状磁性体を積層した磁気コアの場合,シートコア内に多くのフリンジングロスが生じることが知られており,エアギャップ形状を工夫することによりフリンジングロスを減少する手法等も検討されている。一方,圧粉コアの場合には上記と比較して磁気コア内に生じるフリンジングロスは少ないが,フリンジング磁束が巻線と錯交して巻線に生じる損失が無視できなくなることが知られている。巻線に生じるフリンジングロスについては,電磁界解析を用いて計算を行った報告があるが,計算負荷が極めて大きくなるため,電力変換回路に使用するインダクタの損失計算手法として実用的とは言えない。加えて、巻線に生じるフリンジングロスについて計算値と実測値を比較している例は筆者らの知る限り見受けられないため、その計算精度を計ることができていない。特にフリンジングロス単体を測定したという報告は皆無である。そのため現状では、巻線中のフリンジングロスへの対策は、ギャップと巻線の間にマージンを取るという経験則に基づいた方法が主流であり、小型化の妨げとなっている。さらに近年は複数のギャップ(以下、マルチギャップと呼ぶ)を有するインダクタがハイブリッドカー等の装置向けに開発されている。これはマルチギャップの方がシングルギャップよりも鉄損が少なくなるためと言われているようであるが,マルチギャップの場合に鉄損が少なくなるという定量的検討についても筆者らの知る限り報告されていない。ギャップ配置の最適化については既に検討が行われているが,フリンジングロスに関する検討は浅く、設計に生かし切れていない。そこで筆者らは、低計算量で簡易なフリンジングロスを含む鉄損の計算手法の開発を行った。フリンジングロスの正確な計算は、磁性体と巻線構造を精密に模擬した有限要素法を用いた電磁界解析で原理的には可能であるが,膨大な解析要素数の電磁界解析を行うには極めて長時間の計算が必要になり,実用的ではない。本論文の提案手法では短時間での計算を目的として、磁性体ギャップ近傍の漏れ磁束分布だけを電磁界解析で計算し,その磁束密度分布からギャップ近傍の巻線に生じるフリンジングロスを近似計算する。本手法による計算結果と測定結果の比較を行ったところ,両者は概ね一致しており,ギャップ付きコアを用いたインダクタのフリンジングロスを正確に算定できることを確認した。以上の大きく2つの取り組みから、ギャップ付きインダクタへのロスマップ法の適用と、フリンジングロスの計算を併用することで、ギャップ付きインダクタの損失解析が可能となった。そのため、複数のパターンで検証実験と計算を行い、簡単かつ高精度で解析できていることを確認した。
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Other
首都大学東京, 2018-03-25, 修士(工学)
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